ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

万年筆は実用品じゃないのか

私は筆記具として、実用品として万年筆が好きだ。たしかに移動中や立ちながら手を下敷きに書くのに万年筆は向かない。力の加減が調整できない状態ではペン先が折れてしまう可能性があるので鉛筆(芯ホルダー)を使う。鉛筆もいい筆記具だ。

筆記具は万年筆と鉛筆(芯ホルダー)を良く使っている。

そんなこんなで10年強万年筆を使ってきたが、私の周りで万年筆を使っている人を見たのは数人になる。幸運なことに私の周りでは万年筆を筆記具として使っている人しかいないが、世間では万年筆がコレクションアイテムやファッションアイテム、嗜好品として扱われていると感じる。


これはユーザだけではなく万年筆を販売する立場の人たちもそう考えているのかもしれない。筆記具であればサッと取り出してサッと書いてサッとしまえるに越したことはないが、傷防止としてのペンケースや、ペンの外装を拭くための布、飾って保存するためのペンケースやペン置き、保存ケースなど、多種多様な万年筆向けの周辺アイテムが取り扱われている。シャープペンシル向けのそのようなアイテムはないので万年筆が特別に扱われている証拠であろう。

万年筆のコレクタには100本やそれ以上の万年筆を所持しており、10本程度を専用のケースに入れて持ち歩いてる人もいるようだ。それだけ持ち歩いて何に使うのだろうか。それだけの本数をデスク以外で利用する目的が思いつかない。デスクで使うのであれば、会社なりにおいておけばいいだけの話で持ち歩く必要はない。

また10本の使い分けもわからない。私も自宅の机にはカクノのブラックとブルーブラックのFとM、レッドのMを置いているが私の環境では5本もあれば十分だ。Fとレッドはそれほど頻繁に利用しないので数日ペースでインクを補充するのはMの2本だ。出先であればそれほど大きな図面を書くこともないし、なんらかの色のFとBがあれば十分になる。私は現在自宅から離れているが(最大3ヶ月程)、ブルーブラックのF(パーカー75)とB(ヘリテイジ92)、ブラックのB(ヘリテイジ92)の3本しか持ってきていない。所詮出先ではこの程度で十分で、ペンの数より補充用インクを持ち歩くほうが重要になる。


このように私は実用品として万年筆を利用している。そして、そんな万年筆について少し懸念点がある。

万年筆は長く使えるといえど、所詮ペンポイントは磨耗する。磨耗して自分に合った筆記具に変化し、そしてそのまま磨耗して消耗する。そして消耗すると書き味が悪くなりニブを交換する必要がある。

だが、調べてみても消耗したニブを交換した記事が見つからない。万年筆のことについて書かれたブログ記事を探すと、インクについて語られたものや、どこどこの万年筆が至高といったようなしょうもないどうでもいい記事ばかりだ。どれもこれも実用品としてではなくファッションとして使っているような記事ばかりになる。

このことについてTwitterに書いてみると、以下のような返信が来た。

うーん。やはり実用品としては考えられていないのだろうか。ニブの交換が新品と値段が変わらなくても(低価格品を覗いて実際は変わる)、消耗して書けなくなった以上交換しなければ実用品として使えない。新しい本体を購入して自分でニブを差し替えたら新しい軸が無駄になるし、それは交換ではなく買い替えだ。古いものはゴミになる。

これは低価格プリンタを購入した際に、インクセットを購入するくらいならプリンタを買い直したほうが安いと、プリンタを毎回買うようなものではないだろうか。高かろうが交換しなければ使えないのだから交換したい。無駄にもしたくない。


ニブを交換すると書き味が変わるのが当然。消耗したニブの交換は、そもそもに書き味が悪くなったから良くするために交換する作業だ。書き味が悪い消耗したニブも、書き味が変わるからと保存しておいてもなんの意味もない。使わないものはゴミだ。

このようにニブの交換記事がなかなか見つからず、交換するという事にすら否定的な意見があるというのが現状の様子。


そこで万年筆のペンポイントの寿命を考えてみる。これは公式的な発表が無いので万年筆の軸を作っているメーカで人気の中屋万年筆のWebサイトの記載されている情報から考えてみる。

ペン先の先端についている銀色に輝く小さな金属です。イリジウムオスミウムルテニウムが65%、白金その他金属35%で配合した合金です。分子が非常に緻密で、金属で最高の硬さがあり、かつ一番重い金属です。ダイヤモンドの次、という超硬度!磨いた表面は銀光沢のなめらかさがあり、紙の上をさわやかに滑ります。耐酸性・耐摩耗性が高く、イリドスミンをペン先につけて筆記すると、距離で、 60km~70km、字数で500万~600万文字。1日1000字書く人でも約10年間の使用に耐えられます。

http://www.nakaya.org/manual/default.aspx?item=pensakiから引用

とのこと。この情報の根拠とソースがわからないし、EFとBではペンポイントのサイズが何倍も差があり、摩擦係数も異なる。だが今回はこのソースで考えるとする。

例えば新書1冊200ページ13万文字と考えると、作家が万年筆を利用すると30冊程度で寿命になると考えることができる。実際には修正などがあるのでその半分と考えて15冊だろう。年に2冊だと6年ほどで消耗することになる。

1日に1000文字とは多く感じるかもしれないが、余白を考えても400字の原稿用紙3枚分程度だ。私は1日に10枚以上は書くので(図面が多いが)、3倍のペースと考えると4年で消耗することになる。現にパーカー75はかなり磨耗していると言われているが、近所の万年筆専門店で相談したところ、製造が終わっていてペン先の交換部品がないという事で交換が出来なかった。

また、距離の60kmから70kmを考えると未芯研の鉛筆は1本で50kmの線が引けるのでかなり短いと言うイメージも持ってしまう。鉛筆2本以下だ。シャープペンシルの芯で考えても1本で300mなので、40本パッケージで12km、5パックで60kmになる。学生なら5パックくらいなら3年のうちに使うだろう。その程度の距離だ。

この程度の筆記で磨耗する万年筆であるのに、ニブの交換記事やニブ消耗の交換の案内がメーカにはない。どれほど使われていないのであろうか。


また、先に書いたように、量産品はモデルチェンジが大きく、モデルチェンジすればニブも変わるものと考えられる。20年以上連続生産されているモデルが少ないことを考えると、長期間使用後のニブ交換は絶望的なのかもしれない。

先で万年筆の価格はニブの価格と言う事を否定したが、たしかに低価格帯の万年筆はニブの価格が大半を占めるが、高級万年筆と言われるものも、ある程度以上のものは同じニブを使っている。価格差は軸の装飾やメッキ、工芸的な価値が付加されているだけでペン先は同じだ。

これは時計が500円のものも5000円のものも中身が同じ、1万円のものも5万円のものも中身が同じ、10万円以上のものは中身が同じというように、装飾の値段が付加されているのと同じようなものになる。


と、このように長くても10年で磨耗する筆記具のニブ交換ができないとすれば万年筆は「長く使える」と言うのは大間違いであろう。私は現に高校生の頃に使っていたシャープペンシルを未だに使っているし(14年)、これはシャープペンシルの芯という共通規格(JIS)がある以上不変的に利用できる。ボールペンもリフィルのスペーサを作れば使えないことはない。

だが万年筆は規格があるわけではなく、メーカや商品ごとに作られたりもしている。メーカが対応してくれなければどうしようもない。

万年筆は好きだが、このように考えると長く使えるものではないという事を前提に使っていかなければならないのかもしれない。