ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

夜にはずっと深い夜を 鳥居みゆき(著)

世間では鳥居みゆきを色物と評価している人が多いようだがあれは違う。あえてアイツと言わせてもらうが、あいつはすごい。ヤバイ。

このヤバさは色物という意味ではなく頭の良さだ。発想力がすごい。いわゆるなんちゃって常識人は「普通はしない」というわけのわからない「普通」や「常識」を持ち出し、自分の発想にはないことを全て異端と判断して批判する。とにかく自分の枠に収まらない人間は「頭のおかしい人」と判断する。

だが鳥居みゆきはその発想力が素晴らしい。テレビなどでの会話もいわゆる常識破りの返事をドンドンと弾き出す。それが「常識人」には腹がたつのかもしれないが、それは型通りの定形な返事をしているわけではなく、その場その場でその場にあった返事を思考していることになる。

これは「「普通」は共通認識じゃないぞ」にも書いた通り、世の中の「普通」は結局自分の偏見でしか無いということを知っておいてもらいたい。

夜にはずっと深い夜を

夜にはずっと深い夜を


そんな鳥居みゆきのはじめての著書が本書になる。少し前に二作目の「余った傘はありません」と一緒に買ったが、きれい好きのおかんの話を読んで怖くてしばらく読まずにいた。だが昨日読んだ。読み始めたら止まらない。この凄さはなにか。


本書は100文字程度ものから1000文字程度のものまでの短篇集になる。その短篇集それぞれに関わりがあったりと素晴らしい言語力だ。

短いものを引用させてもらうとこのようなものがある。

P74.
ある少女の死

その少女は
高所恐怖症で
自分の背が伸びるのを
怖がった
伸びゆく成長を止めようと
自殺した
彼女は天に昇った
空は恐ろしいほどに

高かった


これがすごいことがわかるだろうか。人は皆成長し背が伸びる。その背が伸びることに違和感を感じることでこの短編を書くことが出来る。鳥居みゆきにしたら世の中全ての現象が観察の対象なのだ。

このようなものから数ページ程度のものまで30弱の短編がまとめられている。同じような長さのものでも「蝉」があるがこれもすごい。この程度の文章なら書けるという馬鹿もいるだろうが、そう思うなら蝉について考えてほしい。


読み始めるとハマり一気に読んだが二作目の「余った傘はありません」以降は書籍や連載を行っていないのが残念だ。是非とも作家としても活動してほしいと思えるような内容になる。

夜にはずっと深い夜を

夜にはずっと深い夜を

余った傘はありません

余った傘はありません