ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

万年筆の本質的な価格的価値

いやぁ、最近は万年筆のことを書くことが多い。

そして万年筆のことについて書くとやはり平常通り絡まれる。怖い万年筆狂の方々に絡まれる。

今回絡まれたのは「万年筆の価格はペン先の価格」と言うこと。この絡まれた理由はおいておくとして、稀に万年筆を使う方からこの言葉を聞くことがある。私も今までにも何度か聞き流してきたが、私はこれを「万年筆の価格的価値は」と言う意味でわかりやすく使っているのかと思って聞いていたが、その言葉を発している狂った方々は本心として「ペン先が価格の大部分を占める」と思っているようだ。

マジで頭おかしいんじゃねーの。

本当にこう思っている人がいるとしたら価格というものが全くわかっていないし、万年筆を色眼鏡で見すぎて思考が狂いすぎている。その狂い過ぎた思考故に万年筆のコレクターにジョブチェンジしていくのかもしれない。


ペン先の材料的な価値をまず考えてみよう。手元に電子計量器がないので正確には測っていないが、パイロットの5号ニブは0.3グラムもなかったはずだ。およそ0.2グラム程度だったかと思うが、下に考えると情報操作だと騒ぐ方々がいるので0.3グラムとする。

パイロットの万年筆の普及価格帯は1万円から2万円だと考えると5号ニブが多く、5号ニブは14金だとして考える。

14金は58.5%が金であとは銀やらの銅やらの合金なので、その合金のなかで最も価値のある金価格を考える。本日10月30日の金価格は4,637円になるので材料原価としては767円となる。14金を実際に売却するとなると純金よりも加工費などの1割強ほど安くなるが、今回はどんどん高めに贔屓して計算するのでペン先の材料原価を750円としよう。

4637*0.3*0.585=767


まずここまででわかるように、どれだけ贔屓に考えたとしてもペン先(ニブ)の資産価値など750円程度のものだ。1万円のカスタム74でも5号ニブでカスタム742で10号ニブで、かすたむ743でも15号ニブだ。15号ニブは計量したことはないが1グラムもないだろうから、3万円の万年筆が14金1グラムでもペン先の資産価値は2500円程度のものだ。

カスタム845は5万円の万年筆になるが15号ニブで、材料が14金ではなく18金になっているだけだ。資産価値としてはこちらも3500円もない。

このように、まず「万年筆の価格はペン先の価格」というのは、ペン先の資産的価値ではないことがわかる。そもそもに、今は落ち着いてはいるものの数年前からの金価格の爆発的な上昇でこれほどの価値があることになるが、2000年ころは金1グラムが1000円程度であったので、当時としては5号ニブであれば200円の価値もない。


では万年筆狂の人たちが言う「ペン先の価格」とはなんだろう。およそ、加工費を加味しているのだろう。確かに万年筆のニブの製造は難しいと想像できる。私も過去に金型設計や、金型製造(大型プレス金型だが)をしていたのでわかるが、微妙なタッチの差を出そうとすると中々手間がかかることはわかる。

だが結局基本的にはニブ自体は超小型のプレス金型で起こすのでそれほど手間がかかるものではない。ニブで難しいのはペンポイントの融着だけだろう。切り欠きさえも金型さえしっかりしていれば難しいものではない。

だがペンポイントの融着にしても手作業ではなく流れ作業となるためにそれほどコストのかかるものではない。製造上の最大コストはペン先の加工になり、その人件費が高く付く程度になる。だが、それらにどれほどのコストがかかったとしてもニブの製造コストは材料原価の750円を合わせても1000円から1500円程度であると想像できる。

これは当てずっぽうの価格ではなく、私の今までの経験も合わせ1500円を超えてしまっては1万円の万年筆では商売にならない。普及価格帯の万年筆で商売にならなければ、そもそもそれは商売として成り立たなくなってしまう。


では販売価格から原価的価値を考えてみよう。これも普及型であるパイロットのカスタム74を考える。パイロットの万年筆では金を含有したニブではこれが最も普及してるものになるだろう(私の考えだが)。

カスタム74の定価は10,000円だ。そして、およそ店舗への卸値は5000円から6000円だろう。大体の文房具は3掛けとして7000円程度の仕入れが多いかもしれないが、万年筆はその仕入れではやってはいけない。

例えば100円のペンやちょっとお高い1000円のボールペンであったとしても、文房具店での扱いは基本的に棚吊りかペン立てでの平置きになるので、3掛けだろうが2掛けだろうがたいしてペンの保存コストや展示コストはかからない。

だが万年筆はそうはいかない。

1万円にもなるとさすがに破損した時や万引きの引当はエグいものになる。そして、そんな状態で売っているものに1万円払おうと思う方は中々居ないだろう。だからこそ万年筆は少し大きめの文房具店のガラスケースやショーケースに展示され、客に言われて取り出して試筆させるという商品になる。ということは展示コストや販売コストが低価格なペンや、同価格のボールペンやシャーペンに比べて高いものになる。

だからこそ店舗にはそれほど安く卸さなければ売ってもらえないものになる。もし8000円で卸したとすると、展示コストで1000円、販売コストで1000円とすると店舗の利益はなく、うまく販売できなければ赤字となってしまう。

例えば時給1200円の人の雇用コストは安く考えても1時間2000円となるので、もし試筆などの接客が30分にもなれば1000円の販売コストなど軽く飛んでしまう。500円のボールペンが100円の利益であったとしても、客がかってに選んでレジに運んできてくれるモノのほうが店にとってはよっぽど優良な商品になのだ。

これはAmazonのカスタム74の販売価格が7000円程度なので、卸値がそれ以下であることは容易に想像できる。


卸値も高く考えて6000円とすると、まずパイロットの利益が2000円から3000円程度はあるだろう。いくら普及価格帯の万年筆といえど、安価なボールペンのように何万本、何十万本も売れるようなものではないので、1本あたりの利益率をかなり高くしておかなければ営業利益がなくなってしまう。

例えば「ジャスタス」は2013年に復刻したので、新しいものずきや万年筆コレクターの皆様、昔買えなかった皆様が飛びつくのかもしれないが、それでも初年度の売上目標は5000本だ。これが達成できたかどうかはわからないが、万年筆などそもそもそれほど売れるものではないので利益率を非常に高くしている商品になる。1万円の「エリート95S」でも目標は8000本となっている。

例えば10万円ほどの万年筆が世界限定400本だとしても1年以上経ってもまだ平然と売られていることがあるなど、10万円程度の万年筆になると年の販売が数百本本程度となるため、半分以上を利益としておかなければ商売として成り立たない。


そしてパイロットの利益を2000円としたら、残りの価格が4000円だ。その4000円のうち、サポート費用が1000円から2000円ほどと設定されているだろう。パイロットは1万円以上の万年筆には品質保証があるため、その商品保証引当としてあるていどの金額が必要になる。私も一度サポートを受けたことがあるが、その際には送料は無料で、メールと電話での連絡、更にはペン先の調整までしていただいたので少なくとも1時間以上のサポートをうけている。そうなると大体2000円程度の引当が必要になり、平均してかなり少なく見積もって1000円になる。

そうすると残った価格は3000円となり、ニブが1000円だとすると残りは2000円になる。そのうち軸やペン軸など他のパーツが500円から1000円ほどで、残りの1000円から1500円が機材償却などの費用にあてられているだろう。

こう考えると製品の本質的な価格など1500円ほどのもので、1万円の万年筆の原価は1500円で、ニブは高く見積もっても1000円いかないだろう。もちろん材料費込みでだ。


これは普及価格帯であるからこそここまで高くなっているが、5万円や10万円する万年筆はペン先の価値など更に低くなる。基本的に万年筆はどれだけ高いものでもペン先は共通だったりするので、3万円の万年筆でも10万円の万年筆でもペン先の価値など3000円もいかないのだ。先に書いたように年に数百本も売れない製品は利益率を50%以上に設定する必要があるので、漆塗りなど高級感を出してはいるものの本質的な価値など無い。

それらはただ単に希少性が生み出している価値にしか過ぎない。


また、カスタム74であれば同型でシャープペンシルやボールペンも出ているが、それもそれぞれに5000円と10000円の商品があり万年筆と同じ価格だ。これらは1万円も出してシャープペンシルを買うユーザは万年筆よりも少ないので製造原価が上がり、さらに利益率を上げていることになるが、そもそもに万年筆の価格がペン先の価格とは大いに違うことは想像できるだろう。


世の中の商品は高価格になればなるほど価格の原価は安くなっている。例えば500円の時計も5000円の時計もクォーツは同じもので、10000円のものも5万円のものも同じ、さらには10万円以上になると100万を超えるものでも基本的には同じクォーツになる。高くなればなるほど販売数が少なくなるために利益率を上げ、その販売価格に見合うように多少ダイヤを埋め込んだりと本質的な機能と別の価値を付加するだけだ。

大量生産の万年筆だからこそ材料原価の何割かをペン先が占めることになっているが、中屋万年筆などの手作り品についてはペン先の価格など微々たるものだ。その大半が人件費になり、ペン先の価格など消耗品の価値でしか無い。


万年筆はたしかにいい文房具にはなるが価値的にはそれほどあるものではない。それは書き心地に対する対価として考えるだけで十分だろう。

世間では書き心地に感じる価値が低いため、万年筆にはそれほど価値がつかずユーザはボールペンよりも少ない。万年筆の多少いい書き心地よりも、価格と携帯性、利用性を考えてボールペンが選ばれている。また、私のように毎日10枚以上の紙に書く人間も学生以外には少なくなってしまっているのだろう。


もちろんこれは単なる無職の私の想像的な原価計算である。だが少しの期間でも働いていればこれくらいの原価計算は難なく出来るだろう。万年筆ユーザの方々はこんなこともできていないのかもしれないが。


さて、私はAmazonほしい物リストに万年筆を入れている。さぁプレゼントにどうぞ。