さくらのクラウドとVPSのベンチマーク比較
現在いくつかのWebサイトをホストするためにさくらインターネットのVPSを契約しているのだが、今後はスケールが必要になるくらいのサービスを展開したいと妄想しているのでさくらのクラウドに移行を考えている。ただし、VPSとクラウドでは同等の数値スペックにすると価格差が5倍以上開いてしまう。クラウドは非常に高価格になるがディスクIOが早いなど宣伝している部分があるので簡単なベンチマークで比較してみた。
VPSもクラウドも双方ともに他ユーザの利用度合いにも影響するためベンチマークを動かすたびに結果が違うかとは思うので参考程度にしてください。
価格比較
まずは価格比較。
比較はVPSとクラウドの契約上の数値を合わせるものとする。実際には同一スペックに合わせるプランがないため近似値とし、クラウドをより上位にする。比較VPSプランは現在契約しているVPS 2G。
VPS | クラウド | |
---|---|---|
CPU | 3コア | 3コア |
メモリ | 2GB | 3GB |
HDD | 200GB | 250GB |
月額料金 | 1,480円 | 11,182円 |
やはり価格が8倍程になる(クラウドは追加ディスクで計算)。VPSの8Gプランでも5倍ほど差がある。
性能比較
性能比較はベンチマークとしてPhoronix Test Suite 4.6.1-Utsira (6 June 2013)を利用しようと思ったのだが、テストのダウンロードに失敗してうまく動かなかったので、各種性能比較別にUnixBench、STREAM、hdparm、FTPダウンロードでの値を比較する。
比較対象は現在契約しているVPS 2Gとさくらのクラウドの最下位のプラン(1コア 1GB SSD20GB)とする。VPSとクラウドで環境が違うが、価格をベースとして一番近似価格のプランでどのくらいの差が出るかという比較とする。価格を無視してスペック値を合わせるとどうしてもクラウドが有利になってしまう(と思う)。
実ハードウェアとの比較対象として、手元のNEC Express 5800/S70を記載している。標準ハードからメモリの追加とHDDをSSDにだけ変更している。ただし、実働させているマシンであるためベンチマークを行いつつも別の作業を行なっているのであまり参考にはならないかもしれない。
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
CPU | 3コア | 1コア | 2コア(Pentium G6950 2.8GHz) |
Mem | 2GB | 1GB | 8GB(DDR3-1333) |
HDD | 200GB | 20GB SSD | 60GB SSD |
OS | CentOS 6.4(64bit) | CentOS 6.4(64bit) | UbuntuLinux 12.04(32bit) |
CPU
ベンチマークとしてUnixBenchを利用する。並列1のテスト結果を比較する。
テストは以下のように行った。
# yum install perl perl-Time-HiRes make gcc # curl http://byte-unixbench.googlecode.com/files/UnixBench5.1.3.tgz | tar zx # cd UnixBench # make # ./Run
結果
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Dhrystone 2 using register variables | 21260045.1 lps | 29002957.7 lps | 18096883.3 lps |
Double-Precision Whetstone | 2759.1 MWIPS | 3577.2 MWIPS | 3096.6 MWIPS |
Execl Throughput | 1348.3 lps | 4763.1 lps | 1938.2 lps |
File Copy 1024 bufsize 2000 maxblocks | 520085.4 KBps | 932748.5 KBps | 612605.2 KBps |
File Copy 256 bufsize 500 maxblocks | 150368.6 KBps | 259922.1 KBps | 197251.3 KBps |
File Copy 4096 bufsize 8000 maxblocks | 1140410.9 KBps | 1665761.4 KBps | 1450945.9 KBps |
Pipe Throughput | 1241266.7 lps | 1938401.1 lps | 1120327.8 lps |
Pipe-based Context Switching | 10765.8 lps | 330536.2 lps | 82678.4 lps |
Process Creation | 2986.0 lps | 14480.6 lps | 7721.1 lps |
Shell Scripts (1 concurrent) | 2553.3 lpm | 5695.2 lpm | 4544.2 lpm |
Shell Scripts (8 concurrent) | 779.0 lpm | 761.9 lpm | 1356.1 lpm |
System Call Overhead | 1585628.4 lps | 2221977.5 lps | 3015594.6 lps |
System Benchmarks Index Score | 624.8 | 1426.7 | 1000.7 |
数値が大きくて読みづらいため、VPSを1とした各値の比率。
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Dhrystone 2 using register variables | 1 | 1.36 | 0.85 |
Double-Precision Whetstone | 1 | 1.30 | 1.12 |
Execl Throughput | 1 | 3.53 | 1.44 |
File Copy 1024 bufsize 2000 maxblocks | 1 | 1.79 | 1.18 |
File Copy 256 bufsize 500 maxblocks | 1 | 1.73 | 1.31 |
File Copy 4096 bufsize 8000 maxblocks | 1 | 1.46 | 1.27 |
Pipe Throughput | 1 | 1.56 | 0.90 |
Pipe-based Context Switching | 1 | 30.70 | 7.68 |
Process Creation | 1 | 4.85 | 2.59 |
Shell Scripts (1 concurrent) | 1 | 2.23 | 1.78 |
Shell Scripts (8 concurrent) | 1 | 0.98 | 1.74 |
System Call Overhead | 1 | 1.40 | 1.90 |
System Benchmarks Index Score | 1 | 2.28 | 1.60 |
VPSはクラウドに比べて全体的にかなり劣る値になってしまっている。クラウドは実ハードウェアに比べてもかなり優秀な値を出しているので、実ハードウェアで考えるとコア当たりはIntel Core i3程度の性能があると考えていいのかもしれない。
計算が主になる用途ではスケールも行えるクラウドがかなり有利になる(但し非常に高価)。
Memory
ベンチマークとしてSTREAMを利用する。コンパイルオプションはデフォルトからいじらない。
テストは以下のように行った。
# mkdir stream # cd stream # wget http://www.cs.virginia.edu/stream/FTP/Code/stream.c # gcc -O stream.c -o stream # ./stream
Best Rate (MB/s)
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Copy | 4956.0 | 6233.5 | 6777.7 |
Scale | 4402.6 | 6036.4 | 6661.4 |
Add | 4891.6 | 6624.0 | 7470.1 |
Triad | 4822.3 | 6652.6 | 7489.4 |
VPSを1とした値の比率。
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Copy | 1 | 1.26 | 1.37 |
Scale | 1 | 1.37 | 1.51 |
Add | 1 | 1.35 | 1.53 |
Triad | 1 | 1.38 | 1.55 |
Avg time
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Copy | 0.035889 | 0.025987 | 0.024133 |
Scale | 0.039197 | 0.026850 | 0.024780 |
Add | 0.053892 | 0.037044 | 0.033162 |
Triad | 0.055277 | 0.038655 | 0.033133 |
VPSを1とした値の比率。
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
Copy | 1 | 0.72 | 0.67 |
Scale | 1 | 0.69 | 0.63 |
Add | 1 | 0.69 | 0.62 |
Triad | 1 | 0.70 | 0.60 |
メモリもCPUと同じくVPSと比べてクラウドが優秀な成績を収めている。メモリはやはり仮想環境ではネックになるようで、実ハードウェアに比べると劣る様子。
VPSはメモリが8GBまでのプランしか用意されていないため、メモリを大量に使う用途でもクラウドが有利になる(但し非常に高価)。
HDD
ベンチマークとしてhdparmを利用して、Read/Writeの速度を計測する。比較のためのコードはHesonogomaTipsより拝借し、テスト回数を12回から6回に変更している。
# # Read: # for i in [1] [2] [3] [4] [5] [6];do sleep 10;echo $'\n\n' $i;hdparm -t /dev/vda3;done
# # Write: # for i in [1] [2] [3] [4] [5] [6];do sleep 10;echo $'\n\n' $i;date;time dd if=/dev/zero of=/tmp/hdparm_write$i.tmp ibs=1M obs=1M count=1024;date;done
Read (MB/sec)
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
1回目 | 55.58 | 150.22 | 182.18 |
2回目 | 87.04 | 150.26 | 188.55 |
3回目 | 240.27 | 150.06 | 188.47 |
4回目 | 43.84 | 150.23 | 194.89 |
5回目 | 251.52 | 150.18 | 189.38 |
6回目 | 210.92 | 150.17 | 192.09 |
平均値 | 148.195 | 150.186 | 189.26 |
Write (1GBのファイルの作成時間)
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
1回目 | 0m4.097s | 0m6.524s | 0m4.371s |
2回目 | 0m2.870s | 0m5.820s | 0m4.360s |
3回目 | 0m2.073s | 0m5.733s | 0m4.312s |
4回目 | 0m2.012s | 0m5.827s | 0m4.333s |
5回目 | 0m1.967s | 0m5.822s | 0m4.357s |
6回目 | 0m2.156s | 0m5.927s | 0m4.509s |
平均値 | 0m2.529s | 0m5.942s | 0m4.373s |
HDDの速度は驚くことにVPSとクラウドでは平均値としてはVPSのほうが優秀な値を出している。読込ではほぼ同等の値で、書込ではVPSがほぼ倍の速度となっている。ただし、VPSは平均値としてはクラウドと同等になっているが、読込がかなり不安定な値となっている。
平均的にはVPSの方が早いが読込がかなり不安定となっているため、常に平均的な速度を望む環境には向かないかもしれない。ベンチマークを取得したタイミングではクラウドはかなり安定した結果となっている。
Network
ネットワークのベンチマークを取得する方法を知らないため、適当なFTPサーバからwgetにてアーカイブを取得する速度を計測した。ベンチマークの取得方法を公開するとFTPサーバに負荷がかかるため、取得サーバは公開しない。また、テストも2回と回数を少なくしている。
サーバのアップロード速度で頭打ちになる可能性もあるが、それはどうすることもできないため気にしないものとする。また、ローカルはプロバイダとの契約が1Mbps契約のため測定不能とする。
Download (MB/s)
VPS | クラウド | ローカル | |
---|---|---|---|
1回目 | 18.6 | 14.7 | - |
2回目 | 31.6 | 19.9 | - |
平均 | 25.1 | 17.3 | - |
驚くことに双方ともにかなり早い。仮想環境は100Mbpsで接続されているという事を読んだ記憶があるのだが双方その速度を超えている。
結果としてはVPSが良好な値になっているが、双方ともに安定した速度ではないため他のユーザの影響をもろに受けているものかと思う。
比較結果
各ベンチマークの結果から概算を出すと以下のようになる。
VPS | クラウド | |
---|---|---|
CPU | 1 | 4.24 |
Memory | 1 | 1.34 |
HDD | 2.31 | 1 |
Network | 1.45 | 1 |
HDDとネットワークはVPSが勝り、CPUとメモリはクラウドが勝っている。気になる点は、HDDに関してはクラウドはSSDを選択しているにも関わらず書き込み速度に顕著な差が出てしまっている。CPUは1コアあたりの性能が4倍以上の差が出てしまっている点はもっと調査が必要になるかもしれない。3コアで並列実行した際のINDEXスコアではVPSは1850となり1.3倍ほどの性能になったが、クラウドはVPSに比べて新しいサービスになるため設置ハードが影響してコアあたりの性能に差が出ているのかもしれない。
以上から、VPSからクラウドに移行するとしても対価格の性能的には問題ないことはわかった。だが、クラウドはディスク容量がネックになるため、大容量のディスクが必要な場合はVPSと併用することも考えたほうがいいかもしれない。クラウドは250GBのディスクを追加すると月額8,000円近くかかる。これは非常に高価になる。
さくらインターネットのVPSとクラウドの性能差については記載のあるページを見つけることが出来なかった為、知識がないながらも以上のようなベンチマークを取得してみた。突っ込みどころも満載かと思いますが、突っ込みどころがあれば是非ともコメントをお願いします。VPSとクラウドの性能差がこれほど顕著に出る理由をお分かりの方がいればそちらもコメント頂ければ嬉しいです。