ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

人を動かす 新装版 デール カーネギー(著), 山口 博(著)

先日から自己啓発書を読んでいる。本書もご多分に漏れず自己啓発の部類に入るようだが、どうもこの「自己啓発」というものがわかりづらい。

調べると発言者により言われていることが全く違う。言葉というものはそれでいいと思うのだが、「自己啓発」と言うジャンルがあるのであれば、そのジャンル足りえる定義が必要ではないだろうか。

私は本書をこれまでに読んだ「自己啓発」とは一味違うように感じた。Wikipediaの自己啓発にある「自己をより高い段階へ上昇させようとすること」というのには本書が当てはまるのだろうか。

これも読み手によって感想は違うかと思うが、私は本書を読み「自分の考え方を変え、それを他人に伝播し、他人の能力を引き上げる法」が書かれているものと理解した。そうであれば本書は自己啓発ではなく、他者啓発、環境啓発とされるべきではないだろうか。本書の内容は引き上げるべくは自己ではなく他者、又は環境だ。

人を動かす 新装版

人を動かす 新装版


本書は「7つの習慣」の4つ目から6つ目迄の習慣を著者の経験や著者の周囲の人間の経験、見聞した内容を交えてその重要性と効用、それを利用しなかった時の失敗談が交えて書かれている書籍になる。

人は結局は自己が最も重要だと考える。人の話を聞くよりも自分が話をしたい、人の失敗を笑うが自分が失敗されて笑われるのは好まない、自分の昇進は誇るが他人の昇進は蔑む。とにかく自分はいいが人はダメというのが人間というものだろう。

それは人間として仕方がないことだと思う。だが、そのように「自分は良くて人はダメ」ということを実践すると結局それは自分に返ってくる。であれば、人が失敗した時にそれを責めず、人が成功した時にそれを褒め称える。これをするとこれも自分に返ってくるというのが本書の言わんとしていることだろう。



私の経験談になるが、子どもが顔を洗うのが嫌がっているとする。風呂に入れても顔に水がかかるのをとにかく嫌がる。その子の親は顔を洗わなければならないので叱りつけて無理やり洗っていたという。

だが私は叱りつけるつもりはない。それが本当に嫌なことであれば、それを強制することで更に嫌がるだろう。であれば次には更にひどく嫌がるだけだ。であればそれがなぜ嫌なのか聞くしか無い。そもそもに顔に水がかかることが嫌なのか、それとも別の原因から顔に水がかかるのが嫌なのかはっきりしなければならない。

それを確認するとその子どもは、以下を顔に水を書けるのが嫌な理由としてあげた。

  • 耳に水が入る
  • 目に水が入る
  • 鼻に水が入る

顔に水がつくのが嫌なのではなく、それぞれの感覚器官に水が入るのが嫌だということだ。顔に水をかけると漏れ無くそれらに水が入るので、「顔を洗う」事を総合的に嫌がっているのだ。であればほっぺを水で洗うのはどうかと聞くとそれは大丈夫だということだ。そもそもに顔が水に濡れることは嫌がっていない。

ということは、耳を自分で塞ぎ、目をつむり、鼻を私がつまみながら顔に水をかけたらそれで解決できることだった。実際にそうすることで顔を洗うことを嫌がらなかった。だが実際に顔を洗った後の問題として、顔を洗った後にまだ目に水が入ることを嫌がった。これも顔を洗った直後にタオルで顔を拭いてやることで解決できた。

どのようなものでもその根本的な理由が有り、それを起因とした表面的な抵抗がある。それを根本的な理由を解決せずに無理やり試行してもそれは新たに別の問題を生むだけだ。根本的な原因を調べ、それを解決すればその問題は解決するのに毎回手間をかけてお互いに不利益なことをする必要はあるまい。



これは本書からすれば些細な問題で例示されないようなものかも知れないが、本書を読みながら私はこれを思い出した。これを仕事に当てはめれば、失敗した結果からそれを咎めるのではなく、その失敗した原因を探し、それが次に起きないように根本的な原因を解決するのが実りある方法ではないだろうか。失敗した本人を責め立ててもそれはもう過ぎたことなので何も解決しない。失敗した本人は心に傷を負うか、あなたに反抗心を持つだけだろう。であれば次にその問題が解決されるかどうかなどわからない、「あなたに利益を与えたくない」と言う抵抗心から別の問題を起こすかも知れない。



本書にはこうした人の扱い方、人の動かし方が書かれている。

「人を動かす」というと言葉が悪く感じるかも知れないが、本書の内容は「人を顎で使う」というようなものではなく、人に指図することもなく、「人を自ら能動的に動きたくなるようにする」と言う意味だ。これは動かす側もイライラすることはなく、動かされる側も自分が主導権を持ち自ら動くことができるので双方ともにメリットがあるものだ。

誰しも「人に言われるがまま動く」のは気持ちが良くないだろう。だが本書は「自分で動きたくなるようになる」のである。この意味がわからなければぜひ本書を読んで欲しい。