ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

「1冊10分」で読める速読術 佐々木 豊文(著)

なんだかなぁ。いや、悪くはない。悪くはないよ。内容は面白いし、本を速く読むための役には立つと思う。だがしかし、内容がぶっ飛び過ぎており、矛盾点も多々ある。一部には宗教的な内容も含まれいると感じた。本書は著者の開催している「速読脳開発プログラム」講座の紹介と、それの勧誘になるかと思う。それは以下に引用するが、きっちり本書にもその点が書かれている。

一般的に知られている速読術にはいくつかある。超高速と言われる「1冊を5分で読む」という部類の速読はフォトリーディングと呼ばれる速読術になるし、拾い読み、飛ばし読みと呼ばれる速読は一冊の中から重要な箇所を2割程度と考えそこを読み全体を把握する速読術になる。その他にも1度の視線移動で数行を一度で読む等という速読法もあり、世間には多種多様な速読術がある。
だが本書はそれらのような「小手先」のテクニックではなく、全ての行に目を通して読んでいくスタイルで1冊(200ページ)を10分で読めるという速読術の説明になっている(上に書いた矛盾はココにも当てはまる)。

以下は矛盾点やぶっ飛んだ内容を指摘するものになるが、それ以外の点は非常に興味深く、「速読」に興味がある方には参考になる内容も多々あると思う。飛びすぎている内容だが為に、その点のみをかいつまんでいるが、本書に書かれている内容を実践するだけで、確かに速く読めるようになるかと思う。私も本書に書いてあることを実践しながら本書を読んだ。訓練が足りていないがために後半はほとんど理解できていなかったかもしれないが、それでも本書の「速読術」がある程度は実践的であることを自ら読み進めながら確信できた。

「1冊10分」で読める速読術 (知的生きかた文庫)

「1冊10分」で読める速読術 (知的生きかた文庫)


まず本書の矛盾点を先に書いておく。

P3.
最初にいっておきたいことがあります。
本書で紹介する「速読」とは、拾い読みをしたり、飛ばし読みをしたりするような小手先のテクニックではありません。また、写真を見るように文章を頭に焼き付ける、といったような、魔法のノウハウでもありません。

P88.
私達は普段、2種類の読み方をしているはずです。
ひとつは、小説を楽しんで読むときのように、全ての文字を飛ばすことなく順に追う「全体読み」の読み方。もうひとつは、辞書を引くのと同様、情報がどこにあるかを探して、必要な部分だけを読む「部分読み」の読み方です。

これは上に書いた速読術を「小手先のテクニック」、「魔法のノウハウ」と馬鹿にしている感じもあるが、本書の後半はまさにそれらを利用した速読術になっている。本書では「全体読み」を「鑑賞読み」、「部分読み」を「情報読み」と命名しており、数十ページを割いてその「情報読みの方法」を説明されている。また、情報読みの進化として新聞や週刊誌等は出版社によってフォーマットが定型化されているものが多く、それらの癖を覚えることで、重要な内容に当たりをつけて読むという「経験読書法」(私命名)も説明されている。

またさらには1分間に10万文字を超えて読む方法も紹介されており、この速度であれば1冊を1分間で読む速度になるため、フォトリーディングよりも早い速度になってしまう。200ページの本を1分であれば、1ページ当たり0.3秒で読む必要が出てくる。これも1行づつ目を通す方法との事なので、これが本当であれば眼球の速度が大変なことになる。本書を例に考えても、本書は1ページ当たり15行になるので、1行当たり0.02秒で読むことになる。1行の高さが約120mmとなっているので、0.02秒で120mm眼球を動かし、さらに次の行の頭に視線を移動させる必要があるのでその倍の0.02秒で240mmの視線の移動になる。
1ページ15行なので、1ページを読むには視線を3.6m(3600mm)移動させなければならず、それを0.3秒で行う必要がある。秒速12m。この数字なら超人的に出来そうな気がしないでもないが、さらに、視線を上から下に、下から上にを15行×228ページで本書を読むのに6840回も切り替えなければならない。1分間に視線を上に下にで6840回は私には出来そうにない。ちなみに15行3ページとしても、1秒間で90回も上下させなければならない。まさに0.01秒に1回近いという計算になる。

だがそれは、著者が行なっている「速読脳開発プログラム」で訓練を積むと出来るようになるようだ。それらの訓練は「速読脳開発プログラム」を受講して欲しいという宣伝になっている。

P22.
彼は、その後の本を読み続け、入会して1年4ヶ月あまり経った頃には、8万字/分を超える速度で読めるようになり、めでたく「速読悩開発プログラム」を卒業しました。トレーニング期間に読んだ本は、おそらく1000冊を超えたと思われます。

受講者の方がいれば、是非とも目の速度を見せていただきたい。


このように超人的な速読の説明も含まれているが、本書は1冊10分になる。1冊を1分、1分間に10万文字ではなく、1冊を10分、1分間に1万文字の速読術を身につけさせる書籍になる。

P3-4.
高速で読む、とは、どのくらいのスピードで読むことなのか?
具体的に言うと、1分間に1万文字以上を読む速度です。
ピンと来ませんか?
わかりやすく換算すると、単行本1ページには500字ほど詰まっていて、最近の一般書は200ページほどあるものが多いので、1冊に10万字詰まっていると考えると1冊を10分で読む計算となります。

だがこれでも上の計算からわかってもらえる通り、1秒間に視線の上下を10回程させる必要が出てくる。読書でなくても、それだけをしばらく続けてみても私には出来そうにない。以前に眼球の移動速度を書いた文献を読んだ記憶があるが思い出せなかった。この文献をお知りの方がいれば、コメント頂ければ嬉しいです。


そして、本書の一番の問題点は以下になる。本書の内容を真っ向否定しているとも捉えられる。

P118.
しかし、正直なところ、読書能力をこのレベルに到達させるには、自分一人の努力だけでは難しいです。なぜなら、本を読んでいる時の自分の目の動きが、自分ではわからないからです。ましてや、瞬間、瞬間で変わる自分の意識の動きは、さらに感じ取るのが困難です。
自分の状況が確認できていなければ、カリキュラムの内容を知った所で、トレーニングはとんでもない方向に進んでしまいます。徒然草にもある通り、「先達はあらまほしき事なり」です。進むべき方向を適切に案内する先達の役割を果たすのが、講師であり、教室というわけです。

この文章の解釈は私には難しく、10万文字/分か1万文字/分かそれとも両方共なのか、どちらの速読術に掛かっているのかはわからないが、そもそも、速読の訓練自体が「一人では難しいから講座に参加しろ」という広告と読める。


この感想文は読書から数日経って書いているため論点が少々ずれているが、何度も言うが本書の内容が悪くない。上に書いたような箇所が気になる程度で他の箇所には実践的な内容も含まれており「速読」の第一歩として勉強になるかと思う。私自体が「速読」について勉強したことはなく、実践的な内容を読んだのは初めてになる。


「1冊10分」で読める速読術 (知的生きかた文庫)

「1冊10分」で読める速読術 (知的生きかた文庫)

NLP速読術~1冊10分で本が読める!時間がなくてもスキルアップ&試験合格~

NLP速読術~1冊10分で本が読める!時間がなくてもスキルアップ&試験合格~

実戦・スーパー速読術 「1冊を1分」の方法―これで人より10倍以上本が読める (ノン・ブック)

実戦・スーパー速読術 「1冊を1分」の方法―これで人より10倍以上本が読める (ノン・ブック)