ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

ルールを変える思考法 川上 量生(著)

いやぁ面白い。「ニコニコ動画が生まれた経緯」と「進化の背景」、「川上量生の考え方」を知るのには最良の書籍かと思う。

だが注意しなければいけない。「ルールを変える思考法」と言うタイトルから想像するような内容は書かれていない。川上量生の考え方を知り、川上量生のルールを破る考え方は書かれているが、決して「思考法」ではない。それらを知り、考え、そこから自分で「思考法」を探さなければならない。

写真は見たことあるものの、川上量生のことを名前すら知らなかった。どのような職種な人なのかも知らなかった。ドワンゴ自体が少々胡散臭い会社であるとも思っていた。だが本書を読むことで創業者の考えを知り、歴史を知り、好きと思える会社になった。本書はこのように、「ドワンゴと言う会社」のことを知ることも出来る。

また、ひろゆきのことををパフォーマンス型の人間と思っていたところがあったが、本書を読んで、考え方も深いと改めて思い知った。


企業の創業者や社長の書籍の多くは「俺はすごい」というような内容が書かれており、「俺がこう考えて会社が成長した」のような内容が多いかと思う。

本書も「俺はすごい」、「俺が最初に考えた」と書かれている点は何点かある。だがそれらはドワンゴと関係なく、ドワンゴ創業前にゲーマーであった時代のゲームに対する自慢になる。自分がゲームをいかに好きか、いかに楽しんできたかを楽しそうに自慢している。本書はその様な著者の内面から、仕事に対する考え方を、「川上量生の考え」として紹介している書籍になる。


所々に入る本書のベースは「ゲーマーは社会生活の役に立つか?」というところにあるみたいだが、大半がそれらの別のところで進んでいる。

P22.
つまり、優秀なゲーマーは、プログラミングだけではなくマネジメントにも向いている。ビジネスに勝つための高い能力と経験値を持っているのがゲーマーであると言えるでしょう。

結論としては巻頭にこのようにでているが、今ゲームをしている人たちはこの言葉に燥ぎ判断を誤ってはならない。この文章にある「優秀なゲーマー」とは世界レベルで活躍しているようなゲーマーやオンラインゲームで数千人、数万人を束ねているような人たちだ。
オンラインゲームで人を束ねる能力の人たちはビジネスでもマネジメント能力があり、ゲームのトップ集団には集中力と問題解決能力が備わっていると言うような内容になる。ニコニコ生放送でゲームを配信しているような人たちではなく、現在ゲームを中心に生活をしている人たちの中でもトップの人たちがこの「優秀なゲーマー」に当たる。

これは「ゲーマー」に限ったことではなく、どのような競技や遊びであれ、それに熱中し、それに対するずば抜けた向上心を持った人たちには同じようなことが言えるかと想う。今現在知識がある人たちよりも、何かに「熱中」出来る人たちが重要なのである。

今ある知識より、それに熱中できる心を持っているかが私は重要だと考えている。

P45-46.
僕が常々思っているのは「競争相手が出てきたら、そのビジネスからは撤退したい」ということです。
なぜか? 競争相手が出てきたとすれば、サービスの運営と、それを完成させていく過程の全てをその相手に任せてしまえばいいからです。それでいて、自分はその便利なサービスを利用する側に回れば、これほどラクなことはありません。
ニコニコ動画に関していえば、「ドワンゴがこれをやめれば世の中から消えてしまうサービス」であるために続けています。逆に、うちが手を引いたら、ほかの人は誰もやらないようなことだからこそ、競争なく楽しく仕事が出来るわけです。
「自分たちにしかできないことをやる」と言えば大変そうに聞こえるかもしれませんが、実はそのほうがラクなのです。

この言葉は聞き飽きている部分はある。だが、本書を読み川上量生がこれを本心から思っているのかもしれないと感じた。これは下の引用にも関連する。

P208.
世の中には、口先だけでそういうことを行ってしまう人間も多いものです。たとえば「Googleを超える世界一のベンチャー企業をつくってやる!」などと口にしている人が、実際にそれが出来ると思っているのかといえば、たいていはあやしい。

本当にそうなのだ。私の前職の社長も同じようなことを言っていた。

「誰もやらないことをやる。うにちしかできないことをやる。」

これを本気でやると掲げて会社を起ち上げて私が合流した。詳しい経緯は別の記事に書いたが、これは全て嘘であった。

会社を立ち上げたらまず、「Webサイトの制作」と言うゴマンとやられている業務を始めた。次にやり始めたのがTwitterの投稿検索システムで、「〇〇でやっているのが便利」と言う理由から始めた。その次が画像掲載サイトのようなもので、「今流行っているが、ほとんどが無料だ。販売しよう。」と「誰かがやったことの真似事」を続けた。

法人設立前の考えとは違うという点を何度も指摘したのだが、「○○が儲かっているから、うちもいけるだろう」と、その言葉を忘れているのか、建前で響きのいい言葉を言っていただけなのか、「自分で言ったこと」を守るつもりもなかった。

Googleを超える」と言っている人もなん人も見たことがあるが、その人たちはGoogleの売上や利益も調べていないような人たちだ。「それほど大きいことを目指している」ということをアピールしたいだけの言葉であったり、「そう言えば注目してもらえる」という宣伝文句でしか無く、本心としては考えても思ってもいない。

上の引用と合わせてこれらの言葉を聞いて、川上量生のファンになった。そして殺し文句が下になる。

P235.
ニコニコ動画にしても、近い将来、滅びるはずです。
それが運命だからです。
そのときに対している相手が、GoogleなのかFacebookなのかはわかりませんが、機械文明に立ち向かう「人間文明の最後の砦」として、華々しく散っていきたい。
そのときにこそ、ニコニコ動画の物語は完成するのだと、僕は思っています。

自分が作ったサービスを、絶賛展開中のサービスをこのようにキチンと捉えられているところに凄みを感じる。どのようなサービスも終了する。他のサービスに押され終了してしまう。インターネットが生まれてから現在までもそのようにして新しいサービスが生まれてきた。そして今後も新しいサービスが生まれ、古いサービスが終了していく。時代が変わればニーズも変わる。

売上絶好調の間はこのことを忘れ「今後も儲け続けられる」と思い込んでしまい、次の手を打つこともなく終わっていってしまう。

川上量生はこのように客観的にも冷静に考える能力があるように思えた。だからこそ、現在のニコニコ動画が生まれ、ドワンゴは新しいサービスを展開してくのかと思う。


今後のドワンゴに期待していきたい。



本書はゲームは悪影響になると考えている親や、そのように考えてゲームから離れている社会人に是非読んで欲しい。私自身もゲームに面白さは見いだせず、悪影響になると考えていたが、少しTVゲームについて考えなおすきっかけになった。

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

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