ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

もの忘れを90%防ぐ法 米山 公啓(著)

本書は決して「もの忘れを防ぐための方法」が書かれた書籍ではない。「もの忘れ防止に役に立つ方法が書かれていない」等の批判めいた内容ではなく本当に「方法」は書かれていない。

「なぜもの忘れをするのか」、「もの忘れは悪なのか」、「もの忘れの仕組み」等が書かれた脳科学的な内容になる。特に前半は「脳における記憶の仕組み」が書かれており、中頃に「記憶力を上げる方法」、後半(と言っても極僅か)に「もの忘れに効く生活習慣」、「記憶力を鍛えるトレーニング」が書かれている。
この内容からもわかるように決して「もの忘れを防ぐ方法」のかかれた書籍ではない。「記憶力の上達法」は少しだけ書かれているが、本書を読むと「もの忘れを防ぐ」と「記憶力を上げる」が違うことがわかる。その為、何度も言うが「もの忘れを防ぐ方法」は本書を読んでも身につかないかと思う。

だが本書は非常に面白い。前半は「記憶の仕組み」を伝えるために脳の部位の説明や、それらが「記憶」にどのように結びついているかが細かに説明されている。この脳科学的な内容に全体の半分ほどがこれに割り当てられている。これには少しめげそうになったが、最後まで読むとそれらの知識の重要性が理解できる。
ここまでで本書は「もの忘れ対策」の書籍ではないとしつこく書いてきたが、現在もの忘れで困っている方にお勧めできないわけではない。「なぜもの忘れをするのか」や「記憶の仕組み」、「記憶するための方法」が書かれているので、それらを理解した上で「記憶」すれば「忘れない記憶」が出来るようになるかと思う。
アルツハイマー等の病気の仕組みや原理も書かれているので、現在それらが気になっている人も本書を読めば、正しい脳の知識を踏まえた上で、それらの病気の正しい知識を得ることが出来るかと思う。


本書の「もの忘れを90%防ぐ法」と言うタイトルは文庫化に当たるための改題で、原典は「楽しいもの忘れ 怖いもの忘れ」というタイトルとなっている。
このタイトルからであれば「もの忘れを防ぐ方法」ではなく、「問題のないもの忘れ」と「問題のあるもの忘れ」のそれぞれの解説であることが理解できるかと思うが、改題により原典の意図が伝わらなくなっている。
確かに原典のタイトルより興味を引くものになっているかもしれないが、本書の意図の伝わらないタイトルになったということは、これは文庫化にあたった担当者の許され難い所業になるかと思える。だがしかし本書のタイトルは興味を引きやすく、それによって私も興味を引かれ本書を読めたことは担当者に感謝したい。
最近この手のいわゆる「釣りタイトル」が多いので書籍を購入する際には騙されないように気を付けなければならないと感じている。

P4.
「もの忘れ」は、脳の問題ではなく、心の問題であると言えるかもしれません。「もの忘れ」する理由は、年齢とは別のところにあります。
一言でいえば「もの忘れ」するようなことは、もともと興味がないのです。
勉強嫌いな学生がなかなか成績が上がらないのは、勉強に興味がないからです。

これは今までの生活の中でも実感してきたことなのですんなり理解が出来た。何年も勉強をした歴史の年号など、「1192年」と「710年」、「794年」くらいしか冗談でも無く覚えておらず、鎌倉幕府も平安京も平城京もなんなのか全く覚えていないが、コンピュータやプログラミング言語のリリース年などはいくつも覚えている。暗記しようとしたのではなく、解説書などを読んでいるうちに勝手に覚えてしまっている。2^16が65536であることや、2^24が16777216なんてことはほとんど必要もないのに覚えてしまっている。
これはコンピュータに興味を持ち、それを調べて勉強してきたなかでの結果になるかと思う。歴史が好きな人は歴史の年号を数多く覚えているし、動物が好きな人は動物の種類を色々知っている。さかなクンは魚の種類をいっぱい知っている。

これは全て重ねて勉強して覚えたことではなく、興味があるがゆえに自分で興味をもって調べたことになる。その調べたことが少数回であったとしても、興味があることであれば自然と覚えている。

こんな当たり前に感じていたことも、本書を読んで改めて気付かされた。こんな当たり前の日常でも、本を読めば改めて気付かされることがある。読書は素晴らしい。

P29.
アメリカのデュープという研究者が興味深い実験を行なっています。
「読み書きのできないアフリカの子ども」「読み書きはできるがハイテク機器とは無縁のアフリカの子ども」「読み書きができてハイテク機器に囲まれているアメリカの子ども」の記憶力を比較したのです。
実験では、それぞれの子供たちに、長くて複雑な物語を読んで聞かせました。そして、聞かせた直後、一週間後、さらに一ヶ月後に、記憶している物語を子どもたち自身に語ってもらったのです。
非常に興味深い結果がでました。
まず「読み書きはできるがハイテク機器とは無縁のアフリカの子ども」は、最後の「アメリカの子ども」よりも物語をよく覚えていたのです。
さらに興味深いのは、「読み書きのできないアフリカの子ども」です。かられは何かを記憶する際、書きとめておいたり、読んで思い出すと言ったことが出来ません。つまり、日常生活の多くを自分の脳の記憶に頼っているのです。
実験の結果、未発達な文化のもとで育った子どもたちが、物語を一番良く記憶していたのです。

これも非常に興味深い。だが結果を知ると当たり前に感じた。私自身も記憶力がよくないと昔から感じているため本書を手に取ったのだが、私は今まで生きていてもの忘れのために生命の危機を感じたことがない。危機と言っても親にどつかれ回されたことくらいだ。だが、そのどつかれ回された原因は今でも覚えている。生命の危機を感じることがあれば無意識に覚えてしまっている。
このように、読み書きのできないアフリカの子どもからすれば、日々日常で学んでいることを忘れてしまえば生命の危機に陥る可能性がある。「この草には毒がある」、「この蛇は毒を持っている」、「この食べ物はこう調理する」。我々であれば一度説明されても記憶せずに本で調べたりインターネットで調べることが出来るためにそもそも覚えようとしないかもしれない。だが、アフリカの人々はそれを先代からずっと経験し伝えてきたのだ。それを覚えて子孫に伝えていかなければ同じ失敗を繰り返してしまう。

文明は新たな知識を与えてくれたが、人間本来の能力をどんどんと萎縮させてきてしまっているのかもしれない。恋人の誕生日を覚えて置かなければ生命の危機にさらされるため誕生日は覚えているが、親の誕生日は覚えていない。覚えていないどころか知ったことがあるかどうかも微妙なところだ。

P69.
そこで、脳の臨界期にさまざまな刺激を受けると、その刺激に対応するネットワークがよく発達するといいます。逆にいえば、この時期に受けていない刺激に対しては、ネットワークが作られないということです。
たとえば、縦ジマしか見せずに育てた子ネコは、成長しても縦ジマにしか反応を示しません。
横ジマを見ても、脳が横ジマを認識できないのです。これは、横ジマを見ることなくそだったネコは、脳の臨界期に横ジマという刺激を受けていないため、それを認識するためのネットワークがつくられなかったためです。

これは別の例えで聞いたことがある。ペリーが黒船で日本にやって来た際に、その黒船のことが見えなかった人たちがいるのだ。黒船が闇に紛れて見なかったという話ではなく、そのような巨大蒸気船を見たことや想像をしたこともなかった人間にはそれを理解することが出来ず、「見えない」と言う状態になってしまったのだ。(この話は昔に読んだか聞いたかのうろ覚えです)

脳というのは実にいい加減で自分の都合のいいように解釈をする。それが錯覚を産み、このような解釈をするのかもしれない。


このように脳科学的なことから、日常生活で感じていたことまで、いろいろな例を上げて本書では記憶の仕組みを解説してくれている。前半の殆どを飛ばし読みしてしまったが、もう少し脳の勉強をしてからもう一度読み直したい。記憶の仕組みが気になっている方には是非ともお薦めが出来る書籍だ。

脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書 は 5-1)

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