ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

電話をかけてこないでくれ

心からのお願いだ。電話をかけてこないでくれ。迷惑だ。

少々前のことになるが私の知り合いの動物病院での出来事だ。

ある日特殊な事情があるペットが持ち込まれてきた。その動物病院ではブログで日々の記録を公開し、動物愛護を訴える活動もしているためにそのペットのことについてその日のブログに書いた。

そうするとそのブログはTwitterなんかで拡散されていき数万人やそれ以上の人に知り渡ることになった。

そしてそれに目をつけたのかテレビ局がニュースとしてそのペットについて放送したいと連絡してきてくれた。

私達は「今後このようなペットが出てこないようになれば、ペットのことについて考えてほしい」とペットと現実を伝えたいと言う気持ちからこの取材を受け入れることにした。

だがこれが失敗であった。私達の思いとは裏腹な現実となってしまった。

animal hospital design 3―差異化・多様化が進む動物病院のかたち

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その取材自体は非常にうまく行き正確な内容を放送してもらうことが出来、悲惨なペットの現実についても知ってもらうことが出来たと思う。

だがその翌日から迷惑行為は始まった。


その動物病院は少し大きめの動物病院にはなるが、電話回線は一般予約、相談用と、緊急用の二回線しか無い。その二つの電話回線に朝からひっきりなしに電話がかかってくる。常にパンクした状態になってしまった。

その電話は非常に馬鹿げたものばかりだ。

「そのペットは現在どのような状態なのか」

「そのペットを引き取りたい」

「そのペットに玩具やおやつを送りたい」

「なぜテレビの取材なんか受けたのか」

どれもバカバカしく病院にとっても、ペットにとっても非常に迷惑で自分よがりな電話ばかりだった。

本当にそのペットの事を考えているのであればこんな電話はしてこないだろう。


どれも「状態を聞いて人に話したい」、「そのペットを私が引き取って満足感に浸りたい」、「このペットの事を心から心配できる私は素晴らしい人間ですよ」と言う内容としか感じることは出来なかった。

最後の「なぜテレビの取材なんか受けたのか」と言うのは、なぜお前にそんなことを答えなければいけないのかもわからない。私達は先に書いたように動物のことを考えて受けたのだ。お前はそのおかげでそんな状態にあることを知ったのではないのか、少なくとも私達の目論見は達成出来ている。

そしてなぜ電話をしてきたのか質問をすると、「ペットが苦しんでいるのにテレビに出ている暇はあるのか」と言うことだった。こんな訳のわからない思考をする人間がいるとは想像していなかった。

お前はそのペットが苦しんでいると思っている時に、そのペットの治療をしている病院に電話をして来て業務を妨害するのかと言う疑問しか感じなかった。

これらの電話は本人からすば「ペットのため」と覆っている部分もあるかもしれないが、それがいかに「ペットに迷惑」がかかっているのか考えてから行動してほしい。


電話をかけてくるということは、それに対応する人が必要なことは考えるまでもなくわかるだろう。お前が電話をしてくることで、すくなくともスタッフ一人がその対応をしなければならない、その間はペットの世話も新たに来るペットの対応も出来ずにドンドンと対応が遅れていく。

しかも一般回線がパンクしているためか、緊急用の回線にもかけてくる馬鹿もいる。それがペットを殺すことにつながるということがわからないのだろうか。

緊急回線はその名の通り重篤な症状がある、予約などしている時間が無い状態のペットがいる人がかけてくる連絡用の回線だ。

それに電話をかけてくるということは、その間につながるはずであった電話に対応できなくなるということだ。その対応の遅れで死ぬ可能性のある重篤なペットがいる飼い主がかけてくる回線なのだ。それがどれほどペットを危険に晒すか考えてほしい。


実際にこれらの対応のせいで三人のスタッフが電話につきっきりとなってしまった。動物病院というのは電話が頻繁にかかってくるところではないので、本来そのスタッフは動物の世話も担当するのだが、その電話対応のせいで動物の世話が後手後手に回ってしまった。そして受付などの対応も出来なくなり、予約や新規の対応さえも遅れて行ってしまった。


本当に心からのお願いだ。

自分よがりなことに気がついて、それらの行動をやめてほしい。

心配であるならこそ静かにそっとしておいてほしい。

電話をかけてくるあなたよりも、電話をかけてこなかった人間のほうがよっぽどペットのためになっている。


あなたがペットの状態を知ったところで何になるのか。それは自己満足以外の何になるのだろうか。

テレビでも放送していただいたが、そのペットの状況はブログで報告していたのだ。電話をかけてこないでも状況は発信している。

そして何より、その電話のパンクのせいで「対応が悪い」等と広げる人たちの心なさに私は悲しさを覚えた。


考えてから行動してほしい。