人を10分ひきつける話す力 齋藤 孝(著)
本書は「会話力」の書籍ではない、「話す力」の書籍になる。その違いがわからなければ本書を読む価値があるかと思う。いや、読まなければならない。
学生のうちは「会話力」で問題ないのだが、遅くとも学校を卒業する前には「話す力」が必要になる。就職活動の際の面接から、プレゼンや資料作り、営業、指導等、一度社会に出ればそこからは「会話力」だけではなく「話す力」が必要になってくる。
「会話」とはお互いの話になるので、相手だけでも「話」ができれば自分は相槌を打つだけでも「会話」は成立するが、その「話」ができない者同士が集まっても「会話」にはならない。「話す」とは自分が話を発信することで、相手に相槌を打たさなければならないのだ。自分を説明するのにも商品を説明するのにも手順を説明するのにも、自分が「話」を発信しなければならない。それが「話す」ということになる。
また、「話」を発信するだけであれば話し手の興味のあることを一方的に話し続ければいいが、それでは聞き手は話を聞こうともしない。だからこそ書名にもなっている、「人をひきつける話す力」が必要になるのだ。
身近に一人くらいいないだろうか、その人の話を聞いていたら楽しいと思える人間が。その人が「話す力」がある人間になる。だが、その人は「あなたにだけ興味のある話す力」の持ち主なのかもしれない。
本書はどのような人もひきつけることができる話す力を解説した書籍になる。
- 作者: 斎藤孝
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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P1.
話すという行為は日常的にやっていることなので、たいていの人は「三分程度のスピーチなら、なんとかなるだろう」と考えがちだ。多少のプレッシャーはあってもどうにかこなせる、と思っている人も多いだろう。だが、実際はそうではない。三分程度なら聞く方の人が我慢できるから、何とかなっているというケースが多いのだ。
本当にこれは納得できた。昨日読んだ「15分あれば喫茶店に入りなさい。」の感想文にも書いたが、3分間スピーチを何日か聞く機会があったが、ほとんどの内容は聞いてもいなかった。ただ聞いているふりをして、感想を求められた時のためになんて答えるかだけを考えていた。
だが、その記事に書いた講師の話は長かった。自分の経験などを30分にもわたって話されることがあったが、それは聞くふりも出来ずに、ノートPCを開いて別のことをしている受講者が半数以上であったかと思う。
3分間スピーチの感想で褒められたので自分はスピーチが上手いのかもしれない。と、勘違いしている人は多いかと思う。興味のない話であれば、そのスピーチの感想は批判にはならない。興味を持ち聞いていたからこそ批判は生まれるが、興味もなく話半分で聞いていたらその話を聞きたくないがために、適当なところを褒める感想になってしまう。
P22.
読者の皆さんは、人の話を聞いていて、辛くなってしまうことがないだろうか? 私にはよくある。それはなぜかと考えると、聞いていた話にあまりにも意味が含まれていないからだ、という結論にいきついた。
これも上の感想と同様になるが、なぜその人の話を聞いていて辛いか、それはその話に興味がないからになるかと思う。今現在興味がない事柄を話しているのではなく、その話に興味がないのである。
今現在どんなに興味が無いことであっても、話の入りが上手ければ興味を持ち聞き始めるはずである。例えば、相対性理論になんて全く興味がなくても、「相対性理論は難しい数学と考えている方が多いかと思いますが、時計のような私たちのごく日常的な場所で使われています。」などのような出だしで始まり、それが解説されていけば興味を持ち聞くかと思う。
学校の校長や会社の社長のスピーチの「秋も深まりを感じ……」のような出だしであれば、そこからもう聞きたくなくなってしまう。秋の深まりを感じることに意味は含まれておらず、それは使い古された枕詞なのだ。そのように話始めるような人の話は全体的に遠まわしになり、話の中の意味の含有率が非常に少なくなってしまう。枕がいるような正式なスピーチだとしても、いきなり「前略……」と始めてもらえれば会話に期待を持ってしまう。
P35.
話し言葉で、使ってはいけない言葉がある。典型的なのは「あと」と言う言葉だ。小学生がよく使うが、なにか話すと「あと〜、あと〜」と、つけ加えていく。そこには話の文脈がない。
「あと〜」という言葉には、どこに着地したいのかがない。聞いている側は、いったいどこに行くのか、自分でもわかっていない引率者に連れられて歩いているようなものだ。
これは完全に私のことかと思う。この文章もそうだがとにかく文章を続けようとしてしまう。何かを伝えるための文章なのではなく、文章を書くための文章となってしまっている。こうなると、最初に伝えたかった内容から離れて話が展開されてしまう。そうなれば文章を全て読んでも、「何が言いたいのかわからない文章」と感じられてしまう。
物事を伝えるのであればそれを伝える文章、話でなければならない。鍛錬をつまねば。
P119.
キャバクラで、店の若い女の子と盛り上がって話せるから、自分は若い女性は得意だと思っているような人は危ない。相手は、お金をもらっているから、どんな話に対しても、「いやぁ、おもしろーい」などと反応してくれるからだ。それは仕事であって、それを「自分は若い女の子ともうまく話せる」などと思うと厳しいしっぺ返しを食らう。
これは身近にもいた。知っているプログラマが接待でキャバクラに行くようなのだが、その経験の話をしていた。
「キャバクラに行くと、帰り際に金持ちたちは女の子に数万円の現金を渡したりしている。だけど、俺はスターバックスの株主優待券を渡す。スターバックスの株主優待券はトッピングがやり放題なドリンクチケットなので、現金をもらったりするよりもそっちの方が実用的で嬉しいようだ。そうするとスターバックスの話も出来て盛り上がる。」
このような事を言っていた。これは悲惨に思えた。完全にキャバ嬢たちの手玉に取られている。商売でやっているのだから、それが現金化でき高価なもののほうが嬉しいのはあたり前だ。それが高級車や別荘などと極度に高額なものになれば気が引けるかもしれないが、数万円などは日常的にもらっている額なので気が引けることもない。日常だ。
スターバックスの株主優待券を渡してくるということは、「自分が株主であることを自慢したい人」とキャバ嬢たちは察して、それを持ち上げてくれる。キャバ嬢たちは褒めて欲しい人たちを褒め、話を聞いて欲しい人たちの話を聞くプロフェッショナルなのだ。
そのようにして来店してきたお客を持ち上げ、いい気分にさせて店でお金を使わせることが彼女たちの仕事なのだから。
このプログラマは、この話を聞いていた女子大生に「それは仕事だから喜ぶに決まってる。それが仕事。」と厳しい言葉を貰って黙りこんでしまっていた。
「話す力」を理解していないと、このような糠喜びや厳しいお言葉をもらうことになるかもしれない。世のオジ様方には是非とも本物の「話す力」を手に入れていただき、キャバ嬢たちを楽しませてやって欲しい。
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「話す力」が面白いほどつく本―効果は“スグに”現れます! (知的生きかた文庫)
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