ゴミ箱の中のメモ帳

まだ見ぬ息子たちへ綴る手記

アナログ時計なんてものは存在しない

私は時計に関してはうるさい。時計の動作音は静かな方がいいが、私はそれについて非常に大きな声で話す。

世間では時計がアナログ時計、デジタル時計という呼び方で分けられている。だが本質的にアナログ「動作」の時計など存在しない。それを理解しているだろうか。たまに説明するのでコレも記事にしておく。

まずアナログ時計とデジタル時計の違いはなにか。

よくアナログ時計、デジタル時計といい、それは動作原理のように思われているようだがそれは本質的に間違いだ。いわゆるアナログ時計、デジタル時計というのはスプリングドライブ、クォーツ、モータ、機械式どの駆動方式にしろ、動作原理はデジタル方式になる。表示方式についても双方ともにデジタルだ。

コレを勘違いして「機械式時計にはアナログの温もりが有る」、「アナログ時計には温もりが有る」と言うのは意味がわからない。そもそも「アナログの温もり」とはなんなのか。「手作りの温もり」と同じように意味がわからない。

 

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モータ式時計は現在は一般販売はされてないだろうから置いておくとして、その他の動作原理を一応説明しておく。

いわゆるデジタル時計の動作原理はクォーツ方式の一択だ。スプリングドライブでもデジタル表示時計を作れるだろうが、需要がないので今後もそれはないだろう。そもそもスプリングドライブすら意味がわからない機構だ。アナログ時計はスプリングドライブ、クォーツ、機械式全て存在するが、一般的にはクォーツになる。正確性としてもクォーツが一番高い。

スプリングドライブ

 これは本当に意味がわからない、どこの需要を狙った商品だかわからないが、駆動方式は素晴らしく憧れのものだろう。SEIKOの特許になるが、SEIKOでもグランドセイコーの上位モデルでのみ採用されている、時計マニアしか買わないであろう仕組みになる。

駆動の仕組みとしては単純にはこうだ。時計の内部には機械式の自動巻きシステムが搭載されていて、それでゼンマイを巻く。そのゼンマイは機械式と同じくテンプの動きに変換され、そのテンプの往復運動は電磁誘導に使われ発電され、その発電された電力でクォーツ時計が動くというシステム。

電磁誘導の電力は安定しないので、非常に無駄かつ、シビアな仕組みを持った、本来的には実用性のない仕組みだ。

動作原理はかなり複雑となっているが、結局はクォーツ時計なので精度はクォーツ時計と変わらない。だがオーバーホールには10万円近くかかるという素晴らしい仕組みだ。金持ちの満足感がターゲットだろう。

クォーツ

 一般的な時計に使われている駆動方式。時計内部には電池が入っいて、その電力でクリスタルを振動させ、その振動カウントで一秒を数えるというもの。クォーツ時計が発明された当時は小型化技術もなく非常に高価なものであったが、現在では100円の時計にも採用されているのでローコスト化にも貢献し、仕組み上非常に高精度にも出来るという方式になる。

省電力化もされており、最近では電池交換なしで10年可動の時計なども2000円程度で売られている。その値段でも月差15秒程度と高精度で、それ故に数百円の時計も、数万円の時計も中身が同じという状態になっている。そして、数万円以上の時計はクォーツであれば中身は一律に同じで装飾で値段が変わるという「時計とは何だ」という仕組みにも貢献している。

年差10秒未満(月差ではなく年差)というものも安価で販売されている。

機械式

 言わずと知れた時計発明時からの方式だ。ゼンマイを巻き、テンプを動かし、その往復運動をカウントし、そのカウントから一秒を計測するという仕組みだ。

もちろんテンプはヒゲゼンマイの伸張に影響を受けるため温度変化や姿勢変化の影響をもろに受ける。それ故に精度は日差レベルになり、数万円のものであれば日差30秒以上、高級品でも日差10秒程度という誤差を出す。

温度変化や姿勢変化の対策はいろいろ考えられており、姿勢変化による重力加速度の影響を平均化する仕組みとしてトゥールビヨンが存在するが、その機構を組み込んだ腕時計は数百万円もするのに結局それでも日差レベルという精度になる。

機械式時計もオーバーホールに数万円がかかる上に壊れやすい為にこれもスプリングドライブと同じく嗜好品になるだろう。


仕組みを一応書いておいたが読んでもつまらないだろう。だが仕組みは基本的にクォーツと機械式しか無いことはわかったかと思う。スプリングドライブも時刻カウントとしてはクォーツだ。

そしてクォーツはクリスタルの振動を数えているという時点でデジタル方式ということはわかるだろう。アナログは連続量、デジタルは非連続量なのであるから、クリスタルの振動という非連続量を数えると言う時点でそれは非連続量でデジタル方式だ。

そして勘違いされていると思われる機械式時計もテンプとガンギ車の仕組みを考えてもらえればわかるかと思うが非連続量でありデジタル方式になる。いわゆるアナログ時計とされている文字盤を見ても、1秒1秒で針が動いたり、0.5秒単位で動いたりしているので非連続量での移動になる。クォーツ方式でも無ステップ秒針のような製品もあるが、それは結局人間が感じられない早さでステッピングモータを回して回転させているだけなので感じられない早さのデジタル動作だ。


このように本来的にはいわゆるデジタル時計、アナログ時計ともに駆動の仕組みはデジタルだ。

機械式時計は精度の問題で嗜好品としたが、それは悪いことではない。腕時計の電池問題は今後数十年であれば問題ないかと思うが、アナログ時計であれば技術者が居る限り使えなくなることはない。これは100年前や200年前の時計が現在も動いていることを見れば明らかだろう。だが現在の機械式時計は職人技的なことが多く、部品が摩耗すればもう復元は不可能かも知れない。


もし機械式時計を悪とするのであれば、そもそもにいわゆるアナログ時計も悪とすべきだ。

デジタル時計は駆動箇所がないゆえに振動に強いが、アナログ時計はクォーツでも針と、それを動かす歯車が駆動式故に振動に弱い。例えばアナログ時計を落下させれば加速度で秒針がずれることは日常だ。この針位置のズレに関してもCITIZENではPerfexで針補正機能を組み込んでいるが、結局はそれも機械式と同じく「針ながければ済む問題」を解決しているに過ぎない。

だがアナログ時計とデジタル時計、双方に併売され、それぞれが売れている状況を鑑みてもどちらに欠陥が有り、どちらが特段に優れているわけでもない。確かにデジタル時計でなければ多重、100時間ストップウォッチ機能や年月日表示、セカンドタイム、多重アラームなどの機能は実装できないが、それは時計の本分ではないので必要とするものが必要とする人のみが選ぶ機能になる。


閑話休題


冒頭に書いたように非常にうるさく書いたが、結局言いたいことはアナログ時計というのは単なる呼び名であり駆動方式がアナログではないということは理解しておいてほしいということだ。

別に知っていなくたって困ることはないが、盲目的に勘違いしているのは良くない。

いやぁ、時計はいいものだ。